同時上映「ひどいよ親方」

学校の行事で、三味線の演奏を聴いた。
弦楽器は不思議だ。
音が楽器から出てる気がしない。
後ろにスピーカーがあるんじゃ?と疑ってしまう。
謎を探るべく、弾いている人の手をじっと見る。
左手はめまぐるしく動くのに対して、右手はまるで機械のようだった。
撥でペシ、ペシと叩くその動きは、磁石の着け外しを繰り返してるようにしか見えなかった。
同じことが繰り返されると、人間は飽きるようにできている。
単調な中に何かが見出せればいいのだが、芸術というのは特に人を選ぶ。
綺麗に動く右手を見ながら、私の頭もリズムを取り出した。
ものすごくスローなテンポで、こっくり、こっくりと。
こういった学校行事で眠る、というのは非常に避けたい行為なのだが、心が制してもまぶたが勝手に閉じてしまうのは仕方がない。
どんなに綺麗なことを考えていても、体は正直だ。


眠っちゃいけないのに、睡魔に押され気味になってくると、私の頭には物語が浮かんでくる。
それは、私が全く考えた覚えがないもので、理解できない世界が展開される夢にどこか通じるものがある。
ハッと意識を取り戻すと、内容はほとんど抜け落ちてしまう。
これも夢と同様だ。
違う点といえば、夢は映像を伴うのに対して、こちらは文字しか現れない。
勝手に頭が小説を追って読んでいる、という状態だ。
三味線を聴きながら読んだお話はほとんど抜け落ちてしまったが、辛うじて「バス」「事故」というキーワードだけは覚えている。
雨の降る日にカーブを曲がりきれずに崖から落ちてしまった。
場面は移り、葬式。
お坊さんの唱えるお経、そのBGMに三味線。
そう、三味線だ。
私は今、三味線を聴いているんだ。
そしてハッと意識を取り戻した。


その後、和太鼓なども登場してにぎやかになり、行事は無事終了。
雨が降る中、今度は友達とともに駅前のカラオケへと向かった。
そこで2時間歌って、これも無事終了。
何があっても無事終了って書いちゃうから、ほんとうに無事なのか分かったもんじゃない。


帰りのバス、読書中の私に、際限なく睡魔が襲ってきた。
行事中に眠くなってしまったのは、飽きただけではなく睡眠不足も原因に挙げられる。
そんな状態の人間がカラオケでエネルギーを消費すれば、眠くなるのは必至だ。
本を開きながら、その本とキスしてるんじゃと思うぐらいに顔を近づけては上げて、近づけては上げてを繰り返す男を見て、隣に座っていたオジサンは何を思っただろうか。
20分の乗車時間のうちに、2ページぐらいしか読めなかった。
本を開いていても、書かれてる文字が違う。
紙に印刷されてる文字が見えるはずなのに、全く違う内容が目の前にある。
また睡魔さん家におじゃましてしまったようだ。
睡魔さん、本の内容を書き換えるのはやめてください。


家に帰るとすぐに夕食を取り、布団に横になった。
睡魔さんの家に再び上がりこんだ私は、そこから帰るそぶりを見せなかった。
私は彼らに負けたのだ。
深夜と思われる時間になってから、私は布団から起き上がって、睡魔さんの家の玄関のドアに手をかけた。
しかし思い直してまた布団にもぐりこむ。
この間、現実の私は布団の中で目を覚ましながらも起きてからすべき行動を一切取っていない。
時計を見ることさえ億劫だった。
時間を知ることなく、私は二度寝の体勢に入った。
睡魔さん家の布団は寝心地がいい。
もしかしたら今日は睡魔さんにVIP待遇されていたのかもしれない。
目覚めたら、朝の8時半だった。
12時間ほど眠ったせいか、冬だというのに全身汗でビショビショだった。
まったくかっこよくない朝風呂を実行し、いざ朝食というところで睡魔さん家のドアをちゃんと閉めただろうか、なんて考え始める。
実際に閉まっているどうかなんてのは、この際関係なかった。
とにかく再び睡魔さんに出会う口実が欲しかったのだ。
つまり、私は食事を取らずに再び眠る道を選んだ。




これが昨日から今日にかけての私の生活。
12時間たっぷり眠ったことで、夢の上映時間がいつもの倍近くあったような気がした。
風呂上がりの睡眠も、なかなか面白い夢を見せてくれた。
ここから先は、夢の内容を延々とつづるだけ。



12時間のほうの夢。
私は理科室にいた。
受けている授業は理科。
物理とか生物とか、そういう枠組みではなく理科。
そこは中学校の理科室だった。
テーブルは6つ並んでいた。
1テーブルの左右に3人ずつ座り、計6人で一班。
私は生徒から見て中央前のテーブルの一番前の左側の席、つまり教室でもっとも先生に近い位置に座っていた。
そのテーブルに座っていた生徒、つまり同じ班の人間は、見たことがある顔ばかりだった。
中学校のクラスメイトと、現在通っている高校のクラスメイト。
他のテーブルに着いてる人は、意識の外にあって「生徒A」「生徒B」なんてふうに表わされてる状態だった。
金曜日の3時間目の授業、それが理科のようだ。
夢の中だから、という便利な仕組みにより、私はそれを知ることができた。
けれど徐々に、自分がこの授業に出席していることに違和感を感じ始めた。
夢の中の自分は、どうやらクラスメイトに会いたいがために、自分の出席すべき授業を放り出していたようだ。
そこでようやく、私の座ったテーブルだけ生徒が7人いるということに気がついた。
しかしそれに気がついたのは、授業時間が半分以上過ぎたときだった。
私は先生に「用事ができました!」とバカみたいな言い訳をして教室を出ると、焦りながら荷物をまとめて自分の出るべき授業の教室に向かった。
部屋を出ると、道は2つに分かれていた。
廊下に面して部屋が並んでいるのだから、当然だ。
右に行くべきか、左に行くべきか。
悩んでいる暇はないほどに焦っていたので、曲がり角が近いという理由で左側の道を選んだ。
角を曲がると、廊下の奥が行き止まりになっているのが見えた。
そこで引き返せばいいものを、私は引き返さなかった。
廊下を走るのをやめて、歩き出した。
どちらも、他に授業をやっている教室が見えたのが理由だ。
うるさく思われないように、怪しがられないようにと思うと、静かに、ただひたすら前に進む以外にすることはなかった。
そして行き止まりの少し手前で、横の教室の扉が開いて、下級生が出てきた。
私が直感的に、「こいつは下級生だ」と感じ取ったその男は、行き止まりまで走るとスッと消えた。
あわてて後を追うと、行き止まりかと思ったそこは、まだ曲がることができるようだった。
曲がると、開いた扉の先から外に出られるようになっていた。
向こうには柵を挟んで校庭が、その手前には柵へ触れることも許さないように茂みがあり、自分の足元には通路としてコンクリートで舗装された道があった。
扉を出て右の方に、さっきの下級生がいた。
見つけた途端、またスッとその男が視界から消えたので後を追う。
するとまた扉があった。
中に入ると、そこは体育館だった。
授業中ではないのか、生徒が自由に使っている。
ガラの悪そうなにーちゃんたちが、座りながらトークに興じていたり、体育館の中心で普段着のまま竹刀を振って戦っている男達がいたり、様々な人がいた。
けれど今の私にはその人たちを観察する暇はなかった。
一刻も早く、出席すべき授業の教室へと向かわなければならないという使命を背負っていたからだ。
体育館は出入り口がいくつもあり、入ってきた方向とは反対の方向にある出口から出ようと、体育館を駆け抜ける。
出口に近づいたところで、チャラチャラしたにーちゃんのグループが入ってきて、危うくぶつかりそうになった。
向こうがとくに私のことを気にしなかったので、私も向こうと関わることなく体育館から出た。
そして外階段を上っていると、突然警報が鳴り出した。
それと同時に、たくさんの人が学校から出てきて圧倒されてしまう。


場面転換、またも理科室。
どうしてここにたどり着いたのかは覚えていないが、またもとの場所に戻っていた。
でも今度は周りの様子が違う。
みんなどことなくそわそわとしている。
聞けば、学校内で何か事件があったようだ。
そして私たちは、その事件発生時に何をしていたのかを聞かれるために集まっているらしい。
授業はとっくに終わって、今は放課後のようだ。
「夢であること」が私にそう知らせている。
事件はあの警報と関係しているに違いない、つまりそのとき授業に出ていない人間が疑われる、つまり自分は容疑者候補!なんてことを考えているとしばらくして、先生が教室にやってきた。
中学の理科教師じゃなくて、高校の英語教師だった。
その先生は、生徒を教室の入り口に呼んで、一人ずつに質問をし始めた。
みんな授業に出てました、と答えているのかすんなりと質問を終えていく。
そりゃそうだ、周りにいる人はみんな、夢の始めに理科室で一緒に授業を受けていた人たちなのだから。
そしてとうとう私が質問される番になった。
言い訳がまだ決まっていない。
どう言い逃れるかを考えていると「4時間目は何をしていた?」と質問された。
3時間目じゃなくて、4時間目?
私は固まった。
全く覚えてない時間を突きつけられたのだから、無理はない。
「夢であること」が発動して、私はその難を逃れた。
どうやら、私はちゃんと4時間目には出ていたようだ。


場面転換、偉そうな先生のいる部屋。
どこの教室かは分からない。
私はその先生に「自分が3時間目に出ていた授業は、途中で抜け出していたこと」を話した。
すると、その先生は顔を恐ろしくさせ「ならお前がやったんだな」と言葉を投げてきた。
その言葉が私の胸に届いて刺さるまでに、わたしは言葉を続ける。
「しかし、体育館であることが起こるのを見ていました」と。
それを聞いた先生の顔は、またも変わり、今度は困った顔になった。
私は「あること」について必死に説明して理解を得た。
そしてこの事件は、私の言葉をきっかけに収束を向かえた。


腑に落ちない点が一つだけある。
ここで起こった事件がいったいどのようなものなのか、目を覚ました私は失念してしまったようだ。
それが分からなければ、この学校の出来事はなんだったんだ、ということになる。
この夢は、この事件だけでは終わらなかった。
さすが長編映画
でも実のない内容が続くだけ。


平穏を取り戻した学校で、私は電車を待っていた。
駅でもないのに電車を待てるのは、学校の2階に駅があったからだ。
夢とはそういうもので、2階の駅から隣町の学校の3階にある駅に瞬時に移動したのも、夢だからの一言で説明がつく。
隣町の学校の駅を出て、階段を上っていくと、階段に座り込んでいる女性がいた。
おそらくこの学校の生徒なのだろう。
その女性に声をかけたのはおそらく、その女性が黒のマジックペンで「700」と書かれた画用紙を首からぶら下げていたのが不思議だったからだろう。
聞くと、どうやらこの女性は、700円で己の身を売っていたようだ。
私は突然その女性に説教をしだした。
もっとお金を取るべきだと、とんちんかんなことを言い放って去って行った。
近くの教室に入ると、一緒にいた友人とともに、何かをした。
何をしたかは記憶にない。
そのあと、何度か自分が通っていることになっている学校と、隣町の学校を往復した。
往復時のキーワードは「草むしり」「プール」の2つ。
通っていた小学校のプールが見えた気がするが、何をしたかは覚えていない。


ここで夢が終了した。
長編映画の終わりである。
さて、続いては、同時上映の短編映画の始まりだ。
風呂上りの私が見たものとはいかなるものだったのか。



場所は風呂場だった。
私は浴槽で湯に浸かる体勢だが、服を着ていたし、湯も張っていなかったので、ちっとも温かくなかった。
湯に遣った私の隣には、人がもう一人居た。
その人は巨人だった。
夢の中の私が、その人を見上げるということをしなかったので、顔が見えなかったのだ。
だから身長が分からないので、巨人。
でもその人がマイクを握っていたのは見えた。
そして、裸だったのは足をみるだけで分かった。
股間に備わったものも丁寧に私の視界に映し出された。
その男はどうやら、何かを実況しているらしかった。
キーワードは「ニコニコ動画」「風呂場」「実況」で、私はブラウザバックを探すべく立ち上がっていた。
ブラウザの左上に「戻る」はある、そう信じて左上の辺りを探す。
しかしここは浴室で、眼前に広がるのは壁面。
それでも探していると、なんと「戻る」アイコンが見つかった。
壁のタイルの一部、「戻る」アイコンの部分が押せるようになっていたので押した。


場面は変わらず浴室、ただし、時間が変わったようだ。
過去に戻ったのかもしれない、「戻る」だし。
私はその浴槽の中で一人しゃがんでいた。
キーワード「火をつけると一瞬で炎となって燃える黒い粉」「元気な少年から黒い粉を奪った、より元気な少年」「奪った少年に対して、黒い粉の使い方がなっとらんと叱る親方」
少年を叱ったあと、親方はかまどを車に変化させて、どこか遠くへ去ってしまった。
ちなみに、浴室が広がっていて、そこからかまどなども見えるようになっていた。
しかも、少年を叱る、というところまでは私が親方の視点で動いていた。
それがどういうわけか、少年から逃げるように車を出すタイミングで、親方から視点が移動してしまった。


その後のキーワード「社長」
なぜかニコニコ動画がもうプッシュされていた。
オススメのされ方は決まって「歌ってる人がいたり、踊ってる人がいたり、芸を披露してる人がいたり、社長がいる」だった。
夢の中では遊戯王の海馬しか浮かばなかったが、どうやらそれで間違いはなかったようだ。
やたらと可愛くなった社長が出てきたからだ。


私にとって、とてもすばらしいことがあったような気がするのだけれど、覚えていない。
非常に悔しい。
ただ分かるのは、私はこの短編の夢から覚めた後に、高熱でうなされてボーっとしている少女、というのを布団の上でボーっとしながら想像していたことだけだ。
きっと、それを考えるきっかけが夢の中で与えられていたのだと思う。
夢を見るなら、ちゃんと覚えておきたいものだ。



おやすみなさい。